ワンオペイベント配信・収録システムの構築
What I Learned
イベント現場において、会場のスクリーン演出と配信・アーカイブ収録を両立させるシステムを構築した。会場進行を絶対に止めない(Main System)と、高品質なアーカイブを残す(Sub System)という異なる要件を、物理的な分離とネットワーク的な統合によって両立できる。SDI による長距離伝送や Bitfocus Companion によるワンボタン制御を取り入れることで、少人数オペレーションでもミスが起きにくい堅牢なシステムとなった。
Details
全体コンセプトと要件
会場演出(スクリーン)と配信・収録の完全分離と連携
会場スクリーンに出す映像(Main)と、アーカイブ/配信用に残す映像(Sub)を物理的に分けつつ、ワンオペレーターで制御可能な環境を構築する。
設計要件
役割の物理的分離(リスク分散)
- Main System (Projector): 会場のスクリーン演出専用。配信側のトラブルが会場進行に影響しない構成
- Sub System (Streaming, Recording): パッケージ映像作成専用。スライドとカメラ映像を合成し、ISO 収録を行う
長距離伝送 (SDI)
- Main 卓と Sub 卓の距離に対応するため、HDMI を SDI に変換(Blackmagic BiDirectional Converter 使用)して伝送
相互監視とリターン
- ATEM Streaming Bridge を使用し、Sub System の映像を Ethernet 経由で Main System の入力 4 へ戻す
- 出演者が収録映像を確認できるようにする
システム構成図

Mermaidソースコード: system-diagram.mmd
セットアップ後の実際の様子

実際のオペレーション環境。左側にPC(ATEM Software Control表示)、中央に2台のATEM Mini Pro、Stream Deck、Loupedeck、右側にオペレーターPC。全ての機材が卓上に集約され、ワンオペレーションで制御可能な配置となっている。
オペレーション構成 (Control & Network)
物理的に分かれたシステムをワンマンで回すための集約設定。
Bitfocus Companion (Stream Deck)
- ネットワーク経由で Main/Sub 両方の ATEM を制御
- 運用ルール: ATEM 本体のボタンは触らない(無限ループ防止)。Companion のプリセットで「スライドモード」「質疑モード」等を一括切り替え
Insta360 Link 2 & Loupedeck
- Web カメラ(Insta360 Link 2)を Loupedeck のボタンで制御
- 画角プリセット(演者、質問者、会場)や、OBS の Replay Buffer(クリップ作成)をボタン配置
ネットワークハブの集約
- 全ての制御信号と Streaming Bridge の映像信号を 1 つのハブで管理
- 重要: 各機材の IP アドレスは固定(Static IP)する
- PC 上で Main System 側(会場側)の ATEM Software Control を常時起動し、音声フェーダーを監視
設定チェックリスト
PC Operator (Mac)
- 接続: Satechi Hub 経由で LAN、Stream Deck、Loupedeck、Insta360、Prograde を接続
- ディスプレイ: 拡張ディスプレイに OBS Preview Projector(Insta360 プレビュー)を表示し、ATEM mini Pro の HDMI 入力 1 と接続
- ソフト: ATEM Software Control (Main 監視)、Bitfocus Companion 起動
Source PC (Windows)
- アプリ: 「カメラ」アプリを起動し、カメラを切り替えておく(信号安定・スリープ防止)
- NW: 完全オフライン(更新・通知事故防止)
ATEM Mini Pro ISO (Sub System)
- 出力: SSD REC [ON], Stream [ON]
- Audio (Mix):
- Mic 1 (Sony Wireless): ON
- Mic 2: OFF
- HDMI 2 (SDI Conv): ON
- HDMI 1 & 3: OFF
ATEM Mini Pro (Main System)
- 出力: USB Out を MultiView (MV) に設定
- Audio (PA):
- HDMI 1, 2, 3: ON
- HDMI 4 (Return): OFF (絶対) ※無限ループ防止
試行錯誤・実現できなかったこと
YouTube Live と ATEM Streaming Bridge の同時配信
- やりたかったこと: ATEM Mini Pro ISO 単体から、YouTube Live への配信と、会場リターン用の ATEM Streaming Bridge への送出を同時に行いたかった
- 結果: ATEM のハードウェア仕様上、ストリーミング出力先は 1 つしか設定できないことが判明
- 対応: 会場へのリターン(Bridge への送出)を優先設定とし、YouTube 配信機能は使用しなかった
Elgato Stream Deck への操作集約
- やりたかったこと: すべての操作(ATEM, Insta360, OBS)を Stream Deck 1 台に集約したかった
- 結果: Bitfocus Companion(ATEM 制御用)と Elgato 純正ソフト(プラグイン制御用)の共存・同時使用が不安定で難しかった
- 対応: Loupedeck Live を追加導入し、物理的にデバイスを分けることで解決(Stream Deck = ATEM 専用、Loupedeck = カメラ/OBS 専用)
iPad での MultiView モニタリング
- やりたかったこと: ATEM Mini Pro (Main) の Type-C 出力を iPad に繋ぎ、Camo Studio 等のアプリで MultiView モニターとして使いたかった
- 結果: 接続のたびに ATEM を再起動しないと iPad 側で認識されないなど、ハンドシェイクが不安定だった。ライブ現場でのリスクが高すぎる
- 対応: 安定性を最優先し、PC への接続(PC Monitor 化)に変更した
おわりに
手元のコントロール環境(Stream Deck & Loupedeck)を整備したことで、ワンオペでスイッチングを回しながら、並行して「名場面のクリップ収録」や「振り返り映像の即時編集」を行うだけの精神的・時間的余裕が生まれた。システムが複雑に見えても、操作系が整理されていれば運用は極めてシンプルになる。
特に「音声の無限ループ防止」や「IP アドレス固定」といった地味な設定が、現場の安定稼働には不可欠である。